第55話 信念を貫く
だんだん寒くなってくると、小児科外来は小さいお子さんでいっぱいになってきます。当然ですが、咳や鼻水の患者さんが多く受診されます。そこで毎年残念に思うのが、他院で処方されたあまりにも多くの薬を飲んでいるお子さんが多いということです。特に、不要と思われる抗生剤を飲み続けているお子さんが目につきます。果たして本当にそれでいいのでしょうか。抗生剤が必要な子どもの病気はあまりないということをご存知でしょうか。子どもの病気は多くがウイルス感染症ですので、抗生剤は効果ありません。「風邪と言われて薬もらいました」といって処方箋見ると、結構抗生剤が処方されているのです(風邪はウイルス感染症です!)。日本には「抗生剤飲めば病気が治る」みたいな風潮が今でもあります。以前よりは少しずつ改善されてはいますが、抗生剤神話みたいなものが早く無くなって欲しいものです。
保護者の方は、どうしても薬が欲しいという事で受診されることが多いかと思います。それで、診察してたくさんの薬を出すのは非常に簡単で説明も不要で、人気も出るでしょう。以前は僕にもそういう時期があったかもしれません。ですが、子育てをして多くの子どもたちの診察をしてきた結果、薬なんか必要最低限でいいのだということがわかってきました。薬を飲ませる方も飲ませられる方も以外と大変なのですよね。ある調査では医者からもらった薬を指示通りにきちんと飲むという方はほとんどいないという結果を見た事があります。これが現実ではないかと思います。
但し、僕でも出さなくてはいけない薬についてはきちんと処方します。例えば、抗生剤が絶対に必要な病気としては、溶連菌感染症があります。その他には、尿路感染症、ひどい中耳炎(軽い中耳炎は必要なし)、採血の結果で細菌感染症が疑われる場合、気管支炎や肺炎くらいでしょうか。となると、抗生剤が必要な病気はほとんどないというのがわかってもらえるでしょうか。たとえ、高熱が続いても原因を追及して、本当に薬が必要かどうかを調べてから薬を飲んで欲しいと思います。ですが、これを理解してもらうには時間も説明も必要で、怒って他の病院に逃げていかれた患者さんも多くいらっしゃいます。間違ったことをしているのではないですが、難しいですね。
患者を増やすために薬を出しまくるか、あるいは信念を貫いて薬は最低限にするか、今でも自分の中に葛藤があります。やれ今日は150人受診しただの、あそこは200人も患者が受診するだのというのが耳に入ってくることがあります。耳鼻科は薬が多いから早く治るという方もいらっしゃいます。お腹いっぱいの薬が欲しい方は、期待に添えませんので当院を受診されないほうがいいかと思います。人気取りの処方をすることなく、自分を信頼して受診してもらっているお子さんたちのため、信念に基づいた正しい診療をこれからも続けていきたいと思っております。
【2012年11月】
よしもと小児科 吉本寿美