第150話 小児科医の価値とは
コロナの影響で小児科の外来患者が激減したと言われ続けて、既に数ヵ月が経過しました。その間にもワクチン接種は変わりなく行ってきましたので、どこのクリニックも何とか経営はギリギリの状態で持ち堪えているといった状況です。いかに開業小児科が市中感染症で運営が成り立っていたのかというのを思いしらされました。その一方で、保護者の皆さんもこれまでの受診のやり方を考え直されたところもあるのではないでしょうか。発熱も、ちょっと待てば下がるケースもあるのだというのがわかった方が増えたかもしれません。風邪だって、元気ならば何もしなくても自然に治っていくものというのがわかってもらえたかもです。日本は、これまで外来受診率が非常に高かったので、やっと当たり前になってきたのかもしれません。
コロナ以降人々の交流が減ったため、子どもをはじめ世の中の感染症は減少しました。内科も同様で、医療センターは深夜の診療をしばらくストップすることになりました。当然風邪をひく子どもさんも減ってきましたので、いわゆる風邪薬を出すことも減少しました。ましてや、抗生剤に至ってはほとんど処方することもなくなりました。風邪薬を貰うために受診されるお子さんも多いと思いますので、そうなれば小児科医としての価値も無くなってくるのではとも思いますが、果たしてそうなのでしょうか。産声をあげた瞬間からが我々小児科医の出番です。産婦人科で診察をやっていると、気になる赤ちゃんが少なからずいます。時には急いで専門医の診察を受けないといけないような赤ちゃんもいます。その他にも湿疹や体重増加の問題など、小児科医がきちんと指導しなくてはいけないことがたくさんあります。また、お母さんの子育て相談に乗ってあげることが出来るのも、小児科医の特権ではないでしょうか。
それからもう少し大きくなってくると、食物アレルギーの問題やら、集団生活の中での問題なども出てくるでしょう。そんな時は、最近は以前よりは時間があるのでゆっくり話を聞いてあげることが出来るようになったようにも思います。自閉症を始めとする発達の問題を抱えるお子さんもかなり増えてきました。小児科医が色々と介入して、筋道をつけてあげるのも大切な役割ではないでしょうか。小児科医には子どもたちの成長や発達を見守っていくという大事な役割があるのも忘れてはいけません。
そして大事なのがワクチン接種における小児科医の役割です。ただ接種するだけならば、小児科医でなく内科の先生にだって出来ます(決して内科の先生がきちんとやられていないわけではないので、そこは誤解のないようにお願いします)。でも小児科医には、任意接種がなぜ必要なのか、子宮頸がんワクチンはなぜ接種するのかなどをきちんと話して接種率を上げていく努力をすることが出来ます。実際、多くの小児科医の先生が努力をされた結果、任意接種のワクチンが定期接種に移行し、近年では子宮頸がんワクチンの接種率もかなり上がってきたようです。年長児の3種混合ワクチンを接種するお子さんも全国的に増加傾向で、非常に嬉しいことです。
小児科医の価値が今後変わっていくのは間違いないと感じています。風邪なんか、乱暴な言い方ですが我々が何もしなくても自然と治っていくものです。薬に頼らない本当に必要な医療を提供することが、今後ますます求められてくるのではないでしょうか。コロナはいろいろなことを我々や保護者の皆さんに教えてくれたように思います。ここからが本当の小児科医の腕の見せ所かもしれませんね。
【令和2年10月】
よしもと小児科 吉本寿美