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第146話 新型コロナウイルス感染症がもたらしたもの

小児科医のつぶやき|第146話 新型コロナウイルス感染症がもたらしたもの

 今回の新型コロナウイルス感染症の流行によって、今後いろいろなことが変わってくるのではないかと予想されています。リモート勤務というのが流行になり、実際に職場に行かなくても自宅にいながら仕事を済ますことが出来る様になってきました。今回それが可能であるということがわかった業界も多いかと思いますので、今後は在宅勤務が主流になる時代が来るかもしれません。また企業の日帰り出張も減ってくるでしょう。それは喜ばしいことではありますが、人間関係の面から言わせてもらえば、果たしてそれでいいのかなと思うこともあります。実際に直接顔を合わせて、面と向かって話すことも大事ではないでしょうか。いわゆる「飲みニュケーション」と言われる日本独特のスタイルも自分は好きです。結構それで親密になれますし、話してみると実はこんな人だったのだという場合もあります。今後どうなっていくのかはわかりませんが、人間関係が希薄になっていくのは避けられないかもしれません。     


 我々の医療業界で言えば、今後は同じように対面診療の基本が崩れていく可能性もあります。今回、直接診察しなくてもテレビ電話などで話をして処方を行うことが可能となりました。特に慢性疾患の方には朗報かもしれません。ただ、小児科はなかなかそれが難しいと思います。例えば咳がひどいと言われても、喉に痰が溜まって咳が出ているのか、気管に問題があってゼイゼイいって咳が出ているのかは、実際に聴診してみなければわかりません。酸素濃度も測定出来ませんし、画面からは伝わらない情報がたくさんあります。まだまだ小児科は対面診療が基本で、ネットを使った診療が手探りの状態で少しずつ入ってくるというところでしょうか。    


 今回のことで、多くの人が必要なものと要らないものを考えられたと思います。これまでは、外に出かけるということが当たり前でしたが、それが出来なくなった時に初めて外に出られるというのがありがたいことだというのが分かったのではないでしょうか。特に子どもたちはその事を強く感じたのだと思います。また、学校の存在がどんなに大事なのかというのも、多くのかたが認識されたと思います。学校で友達と会話して、遊んで、勉強して、運動して、給食食べてという全ての機能がストップしてしまいました。果ては卒業式や入学式さえも当たり前の様に出来なくなったところも多いと聞いています。当然スポーツも例外ではなく、多くの大会が中止となり3年生はどこに怒りをぶつければいいのか、どうしようもない気持ちになっていると思います。スポーツで進路を決める生徒さんも多いので、これは非常に問題です。ただ簡単に延期することも出来ない状況ですので、もどかしい限りです。    


 その他にも、簡単に外食が出来なくなった、旅行に行くことが出来なくなった、里帰りすることが出来なくなったなどなど、当たり前に出来ていたことが出来なくなって、ストレスを感じていらっしゃる方も多いことでしょう。その代わりに自宅での食事が増え、今まで作らなかったものを料理したり、一家団欒の時間が増えたり、要らないものを処分したりといういい面も経験されたのではないでしょうか。    


 まだまだ油断はできませんが、ある程度流行を抑えることが出来つつある日本では、これから徐々に普通の生活が戻ってくると思います。ただ急に以前の様に戻ることは出来ない様です。街中に人があふれることもまだまだのようですし、スポーツを気軽に楽しむことも簡単には出来ないようです。もちろんプロスポーツをこれまでのように応援することもままならないようで、あとどれくらい時間がかかるのかは想像できません。ウイルスが消えることは決してないので、これからは治療薬やワクチンの開発、また診断キットの開発などに期待しつつ、ウイルスと付き合っていくしかないようです。    


 クリニックもそうですが、まだまだいろいろな職業の多くのかたが苦しんでいらっしゃると思います。どうか、あと一踏ん張りして元の生活に戻るように前を向いていきましょう。出口のないトンネルはありません。少しずつ希望の光が見えてきたように感じます。



【令和2年 6月】
よしもと小児科 吉本寿美

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