第162話 普通とは
オリンピックが終わって、その後に開催されたパラリンピックも非常に盛り上がりました。これまで見たことが無いような競技も多かったのですが、障害を抱えながらもメダルを目指してひた向きに頑張る選手の皆さんの姿に心を打たれました。「無いものを羨むのではなく、残ったものでいかに頑張るかだ」というパラ選手の言葉に、感動を覚えました。とても自分ではそのように考えることは出来ないのではないかと思いました。
パラ選手の皆さんは、程度は異なりますがいろいろな障害を抱えていらっしゃいます。いわゆる「普通」の人とは違うところがあるのですが、ではいったい普通とは何だろうという思いが湧き上がってきました。障害を持って生きていくのは大変ではないだろうかと、自分を含め大方の人は思われるのではないでしょうか。でも、よくよく考えてみたら障害を生まれつき持っている方というのは、それが普通だと思われているのではないでしょうか。このように人によって普通という捉え方は違ってくるのだろうと思います。
人生において、普通とは一体何だろうというのを最近考える事が多くなりました。当たり前に学校に通って、大学を卒業して就職するというのが「普通」ということになるのでしょうか。ただ、このような流れというのは少しずつ変わってきているように思います。学校にうまく通えないお子さんも増えてきました。ところが、そういうお子さんがダメかといえばそうでもなくて、きちんと資格を取って世の中の歯車として立派に社会に貢献されているケースも珍しくなくなってきたように感じます。逆に最高学府である東大を卒業しても、なかなか就職する事ができないというのも珍しいことではないようです。まあ、就職したらそれでいいということでもないので、これまた難しいところではありますが。
我々小児科医も、時々「普通」ではない保護者の方に遭遇することがあります。以前から多くはありませんがワクチンは接種しませんと言われる方がいらっしゃいます。何らかの考えがあってのことだとは思いますが、子どもたちの将来のことを考えるとそれだけは避けて欲しいのです。当院はワクチン接種については厳しく指導していますので、恐らくワクチンをしないという方は受診されないのだろうと思います。ワクチン接種については、「普通」であって欲しいのですが、なぜ接種をしないのか理解に苦しむところではあります。結局被害を被るのは子どもたちなのですから、ワクチン拒否は親のエゴとしか思えません。ただ、そういう方はそれが「普通」なのでしょうから、こればかりはどうしようもありません。
最近は多様性ということが注目されるようになりました。もちろん10人の人間がいれば10通りの考え方やライフスタイルがあって当然だと思います。世間でいう「普通」である必要もないと思いますが、小児科医としてはせめてワクチン接種については普通であって欲しいと思います。100歩譲って任意接種までしなさいとは言いませんが、せめて定期接種だけは国がやりなさいと決めているワクチンですので、これくらいはきちんと受けて欲しいものです。周りの方がどう思われているかはわかりませんが、自分は自分のことを「普通」の小児科医ではないかなと思っています。ただ薬にあまり頼らないという診療方針は「普通」ではないのかもしれませんね。
こうやって考えてみると何が「普通」なのか混沌としてきましたが、笑顔の絶えない「普通」の暮らしが早く戻ってきて欲しいと願っています。
【令和3年10月】
よしもと小児科 吉本寿美