第99話 震災後の受診状況について
あれからかなりの時間が経ったように感じますが、震災被害の大きかった地域ではまだまだ復興には向かっていないようです。日々の生活に追われるというのが現実のようで、以前のような生活を送るにはもうしばらく時間が必要ではないかと思われます。全国での報道も少なくなってきていますが、ここ熊本での復興はこれからではないでしょうか。みんなの記憶から忘れさられないように、何とか情報を発信していく必要を感じています。
さて、当院も少しずつ普段の状態に戻りつつありますが、まだ受診できないお子さんも少なくはないようです。具体的には、例年に比べてかなり受診される方は少なくなっていまして、昨年と比べると4、5月は1月に500人以上も受診される方が減少しています。単純に病気のお子さんが減少したのであれば喜ばしいことではあるのですが、本当に病気が減っているようにも思えません。毎年この時期は以外と忙しくしていましたので、地震の影響というのはこんなところにもあるようです。ただ、学校や保育園、幼稚園がしばらくの間休みになっていたので、その間に感染症が拡大しなかった可能性もありますので、評価については難しいところではあります
感染症の患者さんが減少した代わりに、不定愁訴を訴えるお子さんが増加したのが心配です。小さいお子さんというよりは、小学生に多いように思います。しかも、しっかりしたお子さんが多いように思います。見た目は全く元気なのですが、夜になると嘔吐するとか、余震があると異常に怖がってしまうとか、一人でトイレに行けなかったり入浴できなかったりとかいうことがあるようです。先日受診したお子さんは、自分で「地震を経験して、トラウマになりました」と言って診察中に泣き出してしまいました。予想以上に子どもたちの心は傷ついているのだなと、改めて思い知らされました。幸い、保護者の方の理解もあり何とか時間が解決してくれるのではないかとは思いますが、こうも余震が続けばまだまだ安心できないかもしれません。
またこの時期にはあまり受診することのない、喘息発作を起こすお子さんも例年に比べたら多いようにも思います。避難して実家に行ったり、家を片付けたりしたら発作が起きたというお子さんも多いようです。今までは普通に生活していれば発作を起こすことのなかったお子さんが、地震により環境の変化の結果発作を起こしてしまうという、予想外の事態を引き起こしてしまいました。これから被災地では片付けが始まると思いますので、しばらくは注意が必要ですね。
あと病気ではないのですが、南阿蘇や西原村のお子さんのワクチン接種数が減少しているのも心配ではあります。なかなか受診出来ない状況が続き、しかも大雨の影響も重なってアクセスが途絶えてしまったため仕方ないことではあります。当院以外での接種も可能ではありますので、順調に接種が進んでいることを願うばかりです。なかには保護者の方が怪我をされて入院しているというケースもあるようです。現在、百日咳やおたふくかぜの患者さんがいらっしゃいますので、出来るだけ早くワクチンを接種して予防されることを望みます。
幸い当院は建物の被害はありませんでしたが、震災後の状況はいろんなところで変わってしまいました。早く子ども達に以前と同じ笑顔が戻ってくれることを願ってやみません。くよくよしていても仕方ありませんので、これからも「明るく、楽しく、元気よく」子ども達に接していきたいと思っています。
【2016年 7 月】
よしもと小児科 吉本寿美