第121話 今更ですが
急に暖かくなったと思えば寒くなったりして、気候の変化についていけませんが、春の訪れとともに小児科の外来も少しのんびりとした時間が増えてきました。これからは例年のように夏風邪と言われる手足口病やヘルパンギーナが流行ることが予想されます。一般的にはそれほど重症になるような病気ではありませんので、診察も比較的短時間で済むことが多く、ウイルス感染症ですので抗生剤をはじめとする薬を処方することはほとんどありません。あまり頭を悩ますこともなく診断治療が出来ますので、我々にとってはいい季節の到来です。
おおよそ夏風邪をはじめとする小児の病気は、ほとんどがウイルス感染症です。そこで、日本でも抗生剤の処方を減らしていこうという国家戦略が発表されました。2020年までに、内服の抗生剤処方を半分程度に減らすという目標を掲げています。それを遂行するために、この4月から小児科専門医のクリニックでは3歳未満のお子さんに限って、月に2回程度「抗生剤は出しませんよ」という文章を保護者の皆様に渡すことになりました。当院では以前より当たり前のことですので、今更という感じでキョトンとされる方も多いようです。ただこれは、絶対に出さないということではなく、今日は出しませんが経過次第では処方する場合もありますというものですので、誤解のないようにお願いします。やっと国も重い腰を上げてくれたかと思っていますが、これは小児科専門医のみが行うものですから、これが今後他科の診療科の先生に浸透して適正な抗生剤の処方が行われるようにならなければ、目標達成は難しいと思います。
それから、沖縄では「はしか」が流行しています。日本では麻疹撲滅宣言が出されましたので、今回の流行の発端は海外からの輸入感染症のようです。残念ながら、ワクチンを1度しか接種していない世代(30歳〜40歳あたり)が罹患してしまうケースが多いようです。海外に行って知らない間にうつされてそのまま帰国するケースや、海外で罹患している外国の方が知らずに入国してうつしてしまうといったケースが考えられます。「はしか」はすれ違うだけでも罹患してしまう、非常に感染力の強い恐ろしい病気です。特効薬はなく、対処療法のみで、肺炎や脳炎といった合併症で亡くなるケースもあります。今更と思われるかもしれませんが、観光客が多く訪れる沖縄ではGWを控え、深刻な問題となっています。そこで沖縄のお子さんは、特例で6ヶ月からワクチン接種が出来るようになったようです。麻疹の予防はワクチン接種(しかも2回接種が必要)しかありませんので、これ以上拡大しないことを願うのみです。
また、4月には「百日咳」のお子さんを当院だけで3名診断治療しました。これも今更?と思われるかもしれませんが、実は日本では非常に問題になっています。ワクチン接種をしても時間経過とともに交代価は下がりますので、小学生高学年あたりから罹患する可能性が出てきます。将来的には6年生で接種する2種混合ワクチンが3種混合ワクチンに変わる予定ですが、もうしばらく時間がかかるようです。任意接種にはなりますが、小学校入学前に3種混合ワクチンを接種する方法も有効だと言われています。最近、百日咳はランプ法という鼻腔検査でかなり正確に診断することが出来るようになってきましたので、疑わしい場合は早めの検査と治療をお勧めします。
過去のものと思われた病気が流行すると、改めてワクチンの重要さを感じます。まだまだ問題山積の日本のワクチン問題が、何とか「ワクチン先進国」となれるように願ってやみません。同様に、耐性菌を減らすためにも国が先導して抗生剤の適正使用をどんどん推し進めていって欲しいものです。
【2018年 5 月】
よしもと小児科 吉本寿美