第83話 医者とは
例年になく流行したインフルエンザも、あっという間に患者さんがいなくなってほっと一安心です。やれやれといった感じですね。診療する立場で言えば、インフルエンザは比較的簡単ではあります。検査で陽性に出たら、薬を出して諸注意を指導して、小さいお子さんは登園登校の日程を告げて終了という形をとります。やや失礼な言い方になりますが、あまり頭を悩ますこともないので簡単といえば簡単です。逆に陰性に出た場合は何だろうと悩んでしまうことも多く、診療に時間を必要とします。最近は治療薬もありますから、他の病気に比べたらいいのかもしれませんね。
ところで、インフルエンザや他の疾患も最終診断は医者が行うわけですが、医者とは一体なんなのでしょうか。日本では6年間勉強して、国家試験に合格して初めて医者としての資格を得ることが出来ます。開業については、一部を除けば勝手に診療科を標榜することが出来ます。いうなれば、僕が内科や耳鼻科の看板をあげることが出来るということです。もちろん、勉強はやりましたので少しの知識はあるものの専門の先生には到底及ぶはずもなく、また自信もありませんので僕は数年前に内科の看板は降ろしました。最近は細分化されて、標榜する科目もかなり細かく出来るようになったのは、一般の方にとっては良い傾向かなと思います。
ただ、医者にもいろいろなタイプの先生がいます。僕がいうのもおかしいのですが、中にはちょっと変だなと思うような診療をされる先生もいらっしゃいます。先日も医者とは何だろうと考えてしまう事例に遭遇しました。いつも行く産婦人科の1ヶ月健診で診療中に、顔面蒼白の赤ちゃんが連れてこられました。体重は生下時体重以下でやせ細り、呼吸状態も悪くすぐに救急車を要請し、後輩の小児科医に処置をお願いしました。あと1時間遅れていたら、確実に亡くなっていたでしょう。その事をお母さんに告げ、なぜこのようになったのか聞いたところ、「あるクリニックで上の子がアトピーでアレルギーがあると強く言われ、同じように言われるのが怖くてこの子は完全ミルクにしました」とのこと。なぜ、母乳をあげることが出来なかったのでしょうか。幸いにして元気に退院したそうですが、なんらかの病気というわけではなく単なる体重増加不良ではないかということでした。医者の言葉というのは、人の命を左右する非常に重みがあるものだと改めて感じました。
最近はアレルギー疾患のお子さんが増えてきたのは事実です。もちろんアトピーの患者さんも日本では増えています。ただ、あまりにも簡単にアレルギーだのアトピーだのと言われているお子さんが多いように感じます。逆に僕が言わなさすぎると言われたらそれまでですが、医者がそう診断したらそうなりますので診断については慎重であるべきだと思います。患者さんの側も、もし診断がおかしいと思う場合にはセカンドオピニオンという権利をどんどん利用されていいのではないかと思います。そうやって、本当に信頼のおける先生に出会っていただければと思います。難しいのですが、一般の方の評判と僕ら医者の評価が時に違う場合もあります。子供のことはどんなことでも、まずは小児科医に相談してみるのが最も確実ではないかと思います。
今はこうして先生と言われる職業についているのですが、あくまでも先生と言われる前に一人の人間でありたいといつも思っています。昔から全ての患者さんが自分の師であると言われていますが、僕らも患者さんから学ぶことが非常に多いように感じます。病気を直接治すことは出来ませんが、お手伝いをすることは出来ます。治すのはあくまでも患者さん本人であって、僕らはその手助けをしているに過ぎません。残念ながら全ての方に満足される診療をすることは出来ませんが、誰がみても正しいと思われる診療を続けていきたいと思います。医者の言葉は重いものであるということを忘れず、医者とは何かということを今後も追求していきたいと思います。
【2015年3月】
よしもと小児科 吉本寿美