第179話 変わるものと変わらないもの
寒かったこの冬もやっと終わりに近づいたようで、少しホッとしています。流行が予想されたインフルエンザも思ったほどの流行はないようで、このまま収束していくのではないでしょうか。やはりマスク装着をはじめとする感染予防の効果が現れている結果だと思います。新型コロナについても減少傾向ですので、やっと普通の生活が戻ってくると期待しています。
そんな中で、今熊本の話題といえば我が地元に建設中のTSMCではないでしょうか。連日ニュースで取り上げられていますが、うちの病院からも巨大なクレーンを見ることが出来ますし、夜になるとライトアップされた姿が現れます。それに伴って多くの方が台湾から引っ越して来られるようで、住居や学校のことなどいろいろと準備が進んでいるようです。自分が小さい頃の田舎の様子からしたら、想像も出来ないくらいの変貌にびっくりしています。
当然故郷がこれから変わっていくこともたくさんあると思います。問題となっている朝夕の道路の渋滞は、今後ますます酷くなってくるかもしれません。また住宅も増えることが予想されていますので、さらなる道路整備も必要となってくるでしょう。この辺りは町長の手腕に期待したいと思います。問題山積ではありますがいろいろと考えながらやってくれていますので、少しずついい方向に向かっていくのではないかと思います。人口増加に伴って昔から住んでいる住民と新しく引っ越されてくる住民の方が入り混じってきますので、協力しあっていい町になっていくようになって欲しいと思います。田んぼや畑だったところが無くなっていくのもある程度は仕方ないとは思いますが、まだまだたくさんの自然が残っているのも事実です。残せる自然や素晴らしい風景はぜひとも残して欲しいと、小さい頃からこの街で育った自分はこれからもそのように思います。
一方、このように周辺の様子が変わってもそこで暮らしている無邪気な子どもたちの笑顔は昔も今も変わりません。ただ、以前に比べると少し余裕が無くなってきているのかなと思うところもあります。昔と違って周囲の環境が変わったのも関係あるのかもしれませんが、ややゆとりが無くなったようにも感じます。それは大人も一緒ではないでしょうか。これからの社会を支えていく子どもたちの存在は、昔も今も変わらず国の宝だと思います。子どもたちの笑顔あふれる故郷の風景は、これからも続いて欲しいと願っています。
我々医療の現場でもEBM(根拠に基づく医療)というのが叫ばれてきました。以前ではかなり不要な薬剤が使われていましたが、これまでの経験の積み重ねや簡易検査の発達などによって適正な薬剤使用がなされるようになってきました。特に抗生剤の使用量が減少してきたことは喜ばしいことです。ただ溶連菌や細菌感染症などについては抗生剤が必要ですので、当然ながら抗生剤が必要であるのは昔も今も変わりませんが、発熱だけで抗生剤を投与することは正しい選択ではないという考えはかなり浸透してきました。これには接種するワクチンが増加し、感染症が減少したことも大きく寄与していると思います。外来でも以前のような重症の細菌感染症に遭遇することは少なくなったように思います。
こうしてみると、どのような場合でも変わっていかなくてはいけないものもありますが、少しずつ変わっていかなければいけないものもあります。変化を受け入れるのは時には難しい場合もありますが、いい方向に進んでいくためには避けられないこともあります。さて自分の故郷がこれからどう変わっていくのか、これから興味深く注視していこうと思っています。
【令和5年3月】
よしもと小児科 吉本寿美