第101話 トップの責任
震災からはや4ヶ月が過ぎました。少しずつですが熊本も平穏な日々を取り戻しているように思います。しかし、先日乗った飛行機の窓から見たブルーシートの風景は、まだまだ復興には時間がかかるのかなと改めて思い知らされました。震災後に何度か阿蘇に足を運びましたが、今までは30分で行けた場所も、倍以上の時間がかかってしまいます。そのような中にあって、今もボランティア活動などを精力的にやってくれている若者の頑張っている姿をみると、やはり元気をもらいますね。若者にはこれからの日本を背負ってもらわなくてはいけませんから、期待しています。
若者といえば、この夏はオリンピックと高校野球から多くの感動と勇気をもらいました。結果はあくまでも結果であって、そこに至るまでの努力はものすごいものがあったのだろうと思います。出るだけでも凄いと思いますし、いい結果を残した選手にも、うまく結果を残せなかった選手にも拍手を送りたいと思います。特に秀岳館高校野球部はあと1歩でしたね。監督が連れてきた県外選手が多いとかいう否定的な意見もあったようですが(ちなみに県外選手を引っ張るのは他のスポーツでは当たり前ですし、他県でも当たり前のことです)、生徒のみんなは遠く親元離れて熊本の地で頑張ってくれましたし、震災後はボランティアなどの活動もしてくれたと聞いています。僕自身は県外出身選手だけであっても熊本を元気づけてくれたことに対しては、心から拍手を送りたいと思います。
考えてみますと、どちらの場合も選手だけでは結果は残せなかったわけで、そこには素晴らしい指導者の存在があったはずです。多くの選手が「コーチのおかげで」とか「監督の存在があったから」という発言を繰り返していました。僕の大好きなバスケットもそうですが、指導者次第でチームはガラリと変わっていきます。どんなにいい選手を揃えても、指導者がダメならば勝てませんし、逆にそう上手くない選手ばかりでも勝てないかと言われたらそうでもありません。今回のオリンピックだと、男子400mリレーで見せた日本チームの銀メダルには感動しました。個々の力ではどうにもならないけど、チームワークが素晴らしい結果をもたらし、日本の底力を見た感じがしました。
医療の現場に置き換えてみると、僕のクリニックでは自分がトップになるわけです。スポーツでいえば、指導者あるいはコーチの立場でしょうか。自分の指示により職員が動き、方向性が決まってきます。自分がこのような方針で診療していくというのを決めると、そのようになっていきます。良くも悪くも自分次第なのです。病気を治すのは患者さん自身で、医者が治すわけではありません。あくまでも医者はお手伝いをしているに過ぎません。それでも「おかげさまで、よくなりました」と言われると、嬉しくなるものです。病気を治すのは、医者と職員と患者さんのチームワークによるものです。決して一人で治すことは出来ませんので、このことは医療もスポーツに似たところがあるようにも思います。上手くいけばスタッフのおかげ、失敗したらトップの責任だということでしょうか。
ここにきて急に涼しくなったように感じますが、この夏は非常に暑い日が続きました。例年のような手足口病やヘルパンギーナの流行はなく、代わりにRSウイルス感染症が既に流行っていて、いつもとは違う夏になりました。これからは少しずつ病院を受診するお子さんが増えてくるのではないかと思いますが、優秀なスタッフを生かすも殺すもトップである僕にかかっています。トップがダメだからとならないよう、これからも気を引き締めて診療にあたりたいと思っております。
【2016年 9 月】
よしもと小児科 吉本寿美