第183話 感染症との戦い
梅雨に入ってなかなかすっきりしない日が続いていますが、熊本はまだ例年のような梅雨特有の雨は降っていないようです。ただ近年は梅雨が終わる頃にバケツをひっくり返したような雨が降りますので、今月も注意が必要のようです。どうか大きな被害が出ないことを願っています。
そして例年であれば、小児科の外来はこの時期は比較的患者さんも少なくなって我々小児科医もホッとするのですが、今年はこれまでにない多忙極める外来風景となっています。これは全国共通のようで、ニュースでも小児科の外来が大変なことになっていると報道されています。いったい何が起こっているのでしょうか。
考えてみると、コロナ禍の3年間は感染症とはほぼ無縁の世界で生活を送ってきました。あらゆる世代の方が、これでもかというほど感染対策を実施されていましたので、その結果インフルエンザさえも全く流行どころか検査さえもしないというのが続きました。またコロナ前は全国的に流行していた百日咳の患者さんも日本中で激減しました。人との交流がなくなったので、結果的に感染するという機会を失って、普通流行するであろう感染症は一時的に無くなってしまいました。
ところが、コロナも5類感染症の扱いとなり人々の生活も徐々に元に戻っていった結果、瞬く間にいろいろな感染症の流行が始まりました。小児科医はおおよそこの時期にはこの病気が流行るというのを経験上知っていますので、検査などもそこをターゲットに行なって治療をやっていくというのがこれまでの診療でした。ところが、感染症に罹らなかった子どもたちがほとんどでしたので、今月になってあれよあれよという間にいろいろな感染症が流行し始めました。6月にこれほどインフルエンザの流行を経験したことは今までありませんでした。R Sウイルス感染症も、これまではお盆過ぎから流行が始まり年内には終息するというのが当たり前でしたが、今年は6月になってもかなり流行しています。それと同時にヒトメタも流行の兆しを見せて、最近は診断に苦慮しています。
当院ではまだ発熱のお子さんを区別して診察している影響で、ここ最近は待ち時間が以前より長くなってしまいました。ただ、先月からコロナのお子さんも増えてきました。成人のように重症化することはないようですが、それでも高熱と喉の痛みで受診されたお子さんを検査すると、結構陽性になるお子さんも増えてきました。なので、もうしばらくはこの体制で診療を続ける予定ですので、ご理解とご協力をお願いします。
感染症には罹らないに越したことはありません。ただ、何もかからないということは集団生活をしていれば不可能です。入園したてのお子さんは、その後しばらくは嘘だろと言っていいほどいろいろな感染症に罹患します。ただ1年程度経過するとあまり病気にならなくなってきます。やはり感染症は(重症になるのはダメですが)、ある程度は罹っておかないといけないものだと個人的には思います。それがなかった3年間のツケが回ってきたように思います。
小児科医はこれまで感染症との戦いをやってきましたが、これからもその戦いは続きそうです。以前のような感染症の季節感も無くなって、頭を悩ますことも増えてきましたが、的確な診断と治療をこれからも心がけていきたいと思います。でも今月からは少し落ち着いて欲しいというのが小児科医としての本音です。
【令和5年7月】
よしもと小児科 吉本寿美